メニュー 閉じる

2025.6.14 KANGEKI 間隙vol.27 芝滝幸監督作品『つちのちのちうち』

 

■開催日時:2025年6月14日(土)
19:00開場|19:30開映(21:15終了予定)
■上映作品:『つちのちのちうち』(2023年/59分)
トークショー:芝滝幸(芝裕起 滝梓 米川幸リオン)×小森はるか(映像作家)×小原治(KANGEKI主宰)
■料金:1500円
■定員:60


■予約
氏名、人数、参加日を記入し、kangekispace@gmail.comまでお知らせください。担当・小原(オハラ)より確認の返信をさせていただき、予約完了となります。
※予約で満席になれば当日券の販売もございません。
電話でのお問い合わせ:03-3227-1445(ポレポレ坐)


【作品情報】
『つちのちのちうち』(2023年|59分)
予告篇

監督:芝滝幸(芝裕起 滝梓 米川幸リオン)
出演:Lawrence Pikus 米川静香|声:米川幸リオン 滝梓|テキスト・編集:芝裕起 滝梓 米川幸リオン|撮影・録音・サウンドエフェクト:滝梓|英語字幕:滝梓|日・英 両字幕付き上映|©︎芝滝幸2023


某日。仕事を片付け、家路につき、中落合の部屋につくと、いつもこうしてわたしと共にある時間に奇妙な緊張が生まれました。そこでわたしが感じたものをあえて言葉にすると、「自分がここにいなくても流れている時間」です。自身の認識で形づくられている日常の時間に別のシルエットが差し込んでくるような、ハッとする、スリリングな感覚。その日わたしは『つちのちのちうち』を見たのでした。画面の中でも発見と創造が分かちがたく結びつく『つちのちのちうち』を見たその体験が、日常の中にこうした形でも現れてくる。

久しぶりのKANGEKI 間隙を『つちのちのちうち』で開催できてうれしいです。当日は映像作家の小森はるかさんをゲストにお招きしてのトークショーもございます。観客のみなさまに映画を体験として持ち帰ってもらえるような上映会になればと思います。ぜひご参加ください!

小原治(ポレポレ東中野スタッフ・KANGEKI主宰)


米川幸リオンより(芝滝幸)

ある日ベトナム料理屋でのこと、食べカスやらでベトベトなテーブルの上で三缶並んだ空のバーバーバーの隣に配膳されたままの生春巻きを「なんだか映画みたいだな」とふと思った。向こうに透けて見えるのは細々カットされたサニーレタスだったりパクチーだったりキュウリだったり豆苗だったり数々の生のままの食材、ボイルされた少々加工を施されたエビなど、しかしそれらをくるっと半透明の薄皮で包むことによって、それぞれだったものが〈生春巻き〉へとなる──わたしの内のエビ尾が跳ね上がった! 酔いの回った頭に口いっぱい〈映画〉を頬張って、それから〆のサイゴンビールとフォーを注文した。

わたしにとってこの〈生春巻き〉のもっとも味わい深かったポイントは、半透明の薄皮による働きだった。わたしがその食べ物を〈生春巻き〉と思って食したように、わたしがプロジェクターからスクリーンへ投写された映像を「半透明のフィクションの薄皮」でもって包んで食しているからであって、それはもちもち美味しい〈映画〉となっているのかもしれない。そんな考えが脳裏にプロジェクションされる。よし、生春巻き映画をつくりましょう。献立が決まり、そうしてわたしたち《芝滝幸》のフィクションに包まれるための食材探しの日々が始まった。

しばらく経ったある日のこと、ひさびさに実家へ帰省した折に父に庭へと連れ出された。それからここのところ凝っているらしいガーデニングのこだわりのあれこれを説明された。この木になる果実は今年穫れる分は酸っぱくて食べられたものではないだろうけどあと数年もすれば、とか、この花はタネを落とすからもうしばらくすればここ一帯に咲くだろう、とか、この植物はこうこうこういうように手入れをすることでこんなふうに育っていく、とかなんとかブラブラブラ。これまでであれば、荷解きもほどほどにあれこれわたしが話していた。彼らはそれを、わたしがこの家を不在にしていたその時間どこでなにをしていたのか、空いた隙間を縫い留めるようにして聞いていた。しかし、そうではなくなった。この家でわたしはもう暮らしていない、そのことがどうやら彼らの内で落ち着いたようだった。見たことないツナギに袖を通して手を泥だらけに土をいじる父の姿、鼻唄まじりに水を撒く母の姿、いずれもわたしの知らない両親の姿だった。なんだか、この家がわたしの前を歩いていてその後ろ姿を眺めている、そんな感覚だった。これだ、フィクションの薄皮に包まれるべき食材は、この知っているようで知らない若やかな老齢の二人が暮らす家に流れた時間だ、そう思った。わたしたちの〈生春巻き〉はそうやってして土を突き破って芽吹いたのだった。

各々、お好みのタレに浸けてご嘗味あれ! 皆さまのお口に合うことを願って。
ご来場、心よりお待ちしております。


監督プロフィール
芝滝幸
芝 裕起/滝 梓/米川 幸リオンの三名からなる映画制作ユニット。
会社員/カメラマン/俳優 と各々が異なる領域で活動する中、2020年より自主制作という体制のもと三人での創作を始める。映画制作における全ての行程を協同で進行/決定しており、そこに主だった役割分担はない。これまでに『あっちこっち、そっちどっち』(2021年)、『つちのちのちうち』(2023年)の二本を制作。人間を中心に据えた作劇ではなく、日常というレイヤーに別次元のレイヤー ──伝承や民話、超常的な存在、記憶、時間、空間、音、カメラに映るものから映らないものまで──を重ねることによって想起されるフィクションを軸に、そこから映画的な体験が起こることを目標に創作を行っている。現在、三作目の撮影に向けて準備中。

ゲストプロフィール
小森はるか
映像作家。2011年以降、陸前高田や東北各地で人々の語りと風景の記録から作品制作を続ける。代表作に「息の跡」(2016)、「空に聞く」(2018)、「二重のまち/交代地のうたを編む
(2019)、「春、阿賀の岸辺にて」(2024)など。

©Masaji Omote