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【完売】2021.8.29「KANGEKI 間隙」vol.14 藤川史人監督『いさなとり』

本イベントは予約にて完売となりました。


「KANGEKI 間隙」vol.14
■上映作品:『いさなとり』(91分)
■開催日時:2021年8月29日(日)
18:00開場|18:30開映(20:30終了予定)
ゲストトーク:藤川史人(監督) × 加納土(映画監督) × 小原治(KANGEKI主宰・ポレポレ東中野スタッフ)

当日行われたトークの模様はこちらをご覧ください。→ KANGEKI_talk_210829
(採録・撮影=木村奈緒)

■料金:1500円
■定員:25

【関連企画】2021.9.4「KANGEKI 間隙」vol.15 藤川史人監督『Supa Layme(スーパ・ライメ)』


■予約
氏名、人数、参加日を記入し、kangekispace@gmail.comまでお知らせください。後日、担当・小原(オハラ)より確認の返信をさせていただき、予約完了となります。
※当日券はポレポレ東中野の窓口にて、朝の開館時間(9:40)より販売となります。
※予約で満席になれば当日券の販売もございません。
電話でのお問い合わせ:03-3227-1445(ポレポレ坐)


藤川史人監督最新作『ひかりのどけき』には藤川さんと旧知の仲で親交も深い一組の家族(夫婦と2人の子供)が出演しています。この映画はフィクションでありながら、実生活の中で夫婦になるまでに共に過ごした時間や、やがて子供が生まれ4人の家族として育んできた時間が、そんなストーリーを脚本に書き込むのとは別の雄弁さで映画の中にも流れていました。
劇中、4歳の子供が自分に向けられたカメラに視線を返します。それがごく自然な挙動として映っていたぶん、画面越しの僕は虚をつかれました。大抵それはフィクション映画としての約束事を逸脱する行為としてNGになるからです。しかしこの映画はそんな映画づくりの現場に生じる強張りからウィンクがこぼれるような微笑ましささえたたえながら、子供の視線を包み込みます。
僕が藤川さんの映画に魅せられるのは、作品ごとに映画の「幅」を開拓しようとするアプローチが、映画作りをより幸せな行為にするための探求として映るからです。それはこの世界で映画を撮ることに対する一監督としての態度の現れでもあります。
今回の「KANGEKI 間隙」は藤川史人特集として監督作を2回に渡り連続上映します。8/29(日)は藤川さんが広島県の三次市で出会った地元の中学生3人を主演にひと夏の出会いと別れを描いた『いさなとり』。9/4(土)はペルーのアンデス高地でリャマやアルパカを飼育している一家がある日ふもとの村に移住するまでの一年半を記録した『Supa Layme』。どちらも藤川さんが現地の風景の中に身を置き、そこで暮らす人たちとの関係を時間をかけて育みながら撮影した作品です。上映会には映画監督の加納土さん、村上浩康さんにも対談相手として参加していただき、藤川映画の魅力に迫ります。
最後に。最新作『ひかりのどけき』が観客の前で上映される時が来るなら僕も何かしらの形で協力したいと思っています。今回の「KANGEKI 間隙」にお越し下さるみなさんにもご期待いただければ幸いです。(ポレポレ東中野 小原治)


【間隙に向けて】
いさなとりのこと(藤川史人)

大学を卒業し、就職活動に全滅した私は、沖縄県の離島にいた。そこで毎日畑に行き、さとうきびの収穫、通称「きびたおし」をしていたのだ。土と毎日触れているうち、突然小川紳介のことが脳裏に浮かんだ。当時まだ小川プロの映画は未見だったにもかかわらず、小川紳介のことが浮かんだのだった。アマゾンで書籍を購入し毎夜読んでいるうち、山形に移住した彼らも当初は米作りから映画制作を始めたことを知った。毎日畑に行き、鎌と斧を振り下ろしていた私は不思議な縁を感じた。
その後、東京に戻り、商業映画の現場で働かせてもらえるようになった。そこで、とある団地の中を主人公が走り、車載カメラが並走するシーンを撮っていたときのことだった。背後で団地に住んでいる住人が映り込んで、その中で子供がカメラに向かってピースをしてしまい、リテイクすることになった。助監督が飛んでいき、その子供にむかって激昂した。子供は驚いて泣き出してしまい、母親が必死に頭を下げていた。その姿をみて、私は映画作りが心底嫌になった(もちろん商業映画そのものを否定しているわけではない。私自身大好きな映画はたくさんあるし、その現場で働く人たちのことを尊敬してもいる)。できるなら、撮影地で暮らす人たちともっと時間をかけて接しながら、違うかたちで映画作りの可能性を模索したいと思うようになった。もちろん小川プロの映画制作が頭にはあった。
そんなことを漠然と考えているとき、地元広島で友人を訪れた際に立ち寄った三次(みよし)という町に私は一目惚れした。ここで映画を撮ってみたいと強く思い、空き家を借りて一人で暮らし始めた。2013年のことだった。1年かけてアルバイトをいくつも掛け持ちしながら暮らしつつ、脚本を書いた。地元の中学生3人が主演で、東京から名前の知れた役者さんも来てくれることになった。撮影を目前に控えた2014年6月、脚本の改稿を続けていたら、その役者さんの機嫌を損ねてしまい、出演の話は白紙になった。落胆し、そして混乱し、脚本を破棄し宙ぶらりんの状態でどうしたらいいか分からないまま、以前拙作に出演してくれた役者さんに連絡し、数年ぶりに都内で会った。彼女は先日入籍したばかりだと教えてくれた。そのお相手も役者なのだと知り、その場でお2人に出演してくれないかとお願いした。2人とも、脚本がなくなったこんな状況にもかかわらず、出演を快諾してくれた。
こうして2014年8月、1か月かけて撮った映画が「いさなとり」だ。撮影時はスタッフとして東京から数名知り合いに来てもらい、私が住んでいた空き家でみんなで合宿しながら撮影した。雨が多い、どんよりとした夏だった。地元の人たちに協力してもらいながら(バイトしていた焼き鳥屋のマスターからビールケースを差し入れしていただいたり、空き家の大家さんがご飯を作って持ってきてくれたり)、なんとか完成することができたこの映画は、PFFを始め世界の映画祭に呼んでいただいた。
しかし、「いさなとり」完成後の私は意気消沈していた。撮影中、スタッフに自分の考えや意思をうまく言葉にして伝えられず(というかそもそも何がしたいのかも分かっていなかった。ただただ混乱していた)、数々の迷惑をかけてしまったことを反省し、結局自分の映画制作も誰かにとって害悪になってしまっていることを突きつけられ、愕然としていた。
ただ、私は「いさなとり」を駄作だとは思っていない。そこには、中学生3人(2021年現在、20歳になろうとしている!)を始め、出演してくれた人々、そして三次の町、刻一刻と移り変わっていくそういったあらゆるものが映り込んでいた。そういったものを丁寧に拾い上げてくれたスタッフに改めて感謝しながら、半年かけてそれらを大切につないだ(つもりだ)。そうして出来上がった映画は、不格好だが愛おしいものになった。
余談だが、東京から来てくれた役者夫婦とはその後も家族ぐるみの付き合いが続いている。「いさなとり」撮影後に子供が2人生まれた彼らを、今年撮影させてもらった。彼ら自身が家族として出演し、彼らが実際に暮らしている家で撮らせてもらった。「ひかりのどけき」というその映画も、今後上映の機会を模索していきたいと考えている。
2021年にあらためて「いさなとり」を上映することの意味を考え、そしてこの文章を書き始めたが、その答えはまだ見つかっていない。もしかしたらこの上映会を通し、その答えが見えてくるのかもしれない。そもそもその問い自体が意味のないことなのかもしれない。「いさなとり」を撮り終えた後も幸いにも映画を作り続けることができている私は、しかしいまだ混迷の渦中にいる。
東京の、東中野の喧噪の間隙で、ひっそりとこの映画を共有できることを嬉しく、そして楽しみに思っています。


『いさなとり』


2015年|91分|カラー|ヨーロピアンヴィスタ|日本
出演:田中隼翔 木村祐斗 竹廣三四郎 平吹正名 きむらゆき
撮影:渡邉寿岳|録音:野口高遠|助監督:奥田裕介
監督・編集:藤川史人


【作品解説】
太古の昔には海の底だった町では、今もクジラの化石が出てくる。この地に千年前から伝わるという天狗の舞や、被爆体験を語る老人、無縁仏の存在などを点在させながら、中学生のユウタが体験する出会いと別れを描く。東京から来たよそ者が土地に少しずつなじんていく様子も、作品に一つの層を与え、効果的だ。

【監督プロフィール】
藤川史人(ふじかわふみと)
1985年広島生まれ。特定の土地に一定期間暮らし、そこで生きる人々と映画制作を行ってきた。監督作に「過日来」(2012年)、「いさなとり」(2015年 PFF2015観客賞・日本映画ペンクラブ賞、バンクーバー国際映画祭招待上映、リマ・インディペンデント国際映画祭グランプリなど)、「Supa Layme」(2019年 リマ・アルテルナ国際映画祭国内部門グランプリ、パチャママ国際映画祭コンペ部門入賞など)、「ひかりのどけき」(2021年)など。


【お客様へのガイドライン】
当イベントでは、新型コロナウィルス感染防止と共に、お客様に少しでも安心してご鑑賞していただけるための環境づくりに努めてまいります。
そのため、下記ガイドラインへのご理解・ご協力の程、よろしくお願いします。
・ご来場時にはマスクを着用して下さい。※マスクを着用していないお客様には受付にてマスクをご購入していただきます。
・入場口にアルコール消毒液を設置しておりますので、ご利用ください。
・咳や発熱、その他体調に不安のある方はご来場をお控え下さい。
・従業員や登壇者もマスクの着用を義務付けております。
・場内でのお食事はお控え下さい。お飲み物はご利用していただけますが、容器の問い扱い等、周囲のお客様には充分ご配慮下さい。(ドリンクはカフェでも注文できます)