「KANGEKI 間隙」 vol.10
古澤健監督最新作『生き仏2020』聖なる夜の上映会
非常時には主語が「みんな」になる。「みんな」以外は時に切り捨てられる。無理矢理そうでもしないと先に進めない状況があるからだ。
2020年4月7日、政府から緊急事態宣言が出され、全国の映画館は休館を余儀なくされた。
こんな息苦しさの中でこそ、映画を上映したかった。
映画は観た人の数だけ生まれる。正しいも間違いもなく、バラバラの健やかさがある。
古澤健さんから連絡をもらったのは、そんな時だった。
彼は映画館に映画を観に来たのではなく、映画を撮りに来た。
その後、編集を経て完成した映画を観て、おかしくて笑った。古澤映画のエッセンスたっぷりなのだ。
そしてじんときた。観客のいない、しんと冷えきったあの日の映画館に、こんな感情が射し込んでいくなんて。
『生き仏2020』は休館中だったポレポレ東中野でひっそりと撮られた、古澤健監督の最新自主映画である。(ポレポレ東中野 小原治)
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2020年4月7日、新型コロナ感染拡大への対策として政府から緊急事態宣言が出され、それに伴って多くの飲食店や劇場が営業自粛をすることになった。
その翌日、4月8日に僕は慌ててポレポレ東中野の支配人にメールで短編映画制作の企画書を送った。ポレポレ東中野館内で映画を撮りたい、と。
その中で僕は「映画の上映中止を余儀なくされた空っぽの映画館は『映画館』ではなくなってしまうのでしょうか? それとも、そこがいつもと違う『映画館』になる可能性はないでしょうか?」と書いている。
つかのまではあるかもしれないけれど、『映画(を観る)館』を『映画(を作る/が生まれる/の舞台となる)館』に変えるチャンスかもしれない、と思ったのだった。
世間が蒼ざめているときに、ロクでもないことを考えるのが、映画監督というやつであるらしい。
ひとを集めてはいけない、という状況の中でひとを集めようというのだから、策がなくてはならない。
というわけで、最低限の人数、向き合っての(セリフ)芝居はなし、公共交通機関を使わないでポレポレ東中野に集まれるメンバー、という布陣で短編映画を作ることを提案したのだった。
このとき僕の念頭にあったのは、高橋源一郎の『恋する原発』という素敵で愚かな小説のことだった。
2011年の夏(つまり震災と原発事故から半年も経たない時期)に文芸誌に発表されたこの小説では、AV監督が震災チャリティのためにアダルトビデオを作ろうとする。
「不謹慎な……」という声が聞こえてきてもおかしくない、猥雑な言葉で満ちた不真面目な小説だ(が不真面目じゃない小説なんてない)。
しかし僕には、そういう罵声を一身に引き受けるために生み出された、芸術的な達成や完成度とは無縁の、いやそんなものはクソ喰らえと言わんばかりの倫理的な本であるように読めたのだった。
17歳の夏休みに、「18歳になる前に映画を撮り始めなければ俺は映画監督になれない!」という根拠なき内心の声に導かれ、僕はフジカP300という同録の8ミリカメラで『生き仏』を撮った。
英語の授業中、「living deadを日本語に翻訳したら……生ける屍……じゃなくて生き仏か?」と思いついて(思いつきだけで)台本を書いた。
その後、立て続けに映画を撮るのだが、いずれも『北枕』とか『人食いガスコンロ』や『うんこ味のカレーを食べる話』など幼児の発想めいたものばかりで、制作に巻き込んだ後輩には「先輩のやりたいことってこういうことなんですか!」と怒鳴られる始末だった(その現場のひとつには、今回も関わってくれた宇波拓もいた)。
それに対して当時の僕は「仕方ないだろ! これしか思いつかないんだから!」と答えたのだった。
本当は高尚な何かを撮りたいと思う。
でも30年後の今回も僕は「仕方ないだろ! これしか思いつかないんだから!」と答えるばかりだ。
この大変な時期に……すみません。
立派な自主映画も世の中にはたくさんあると思いますが、僕の考える自主映画はやっぱり『生き仏』なのです。古澤健(映画監督)
「KANGEKI 間隙」 vol.10
古澤健監督最新作『生き仏2020』聖なる夜の上映会
■開催日時:2020年12月24日(木)
18:30開場|19:00開映(20:20終映予定)
上映作品『生き仏2020』
同時上映『making of 生き仏2020』
ゲスト:古澤健、石川雄也、他
ミニライブあり
■料金:1500円
■定員:限定30名
■予約
氏名、人数、参加日を記入し、kangekispace@gmail.comまでお知らせください。後日、担当・小原(オハラ)より確認の返信をさせていただき、予約完了となります。
※当日券はポレポレ東中野の窓口にて、朝の開館時間より販売となります。
※予約で満席になれば当日券の販売もございません。
電話でのお問い合わせ:03-3227-1445(ポレポレ坐)
『生き仏2020』
2020|8分
「これは事実をもとにした映画である。古来日本ではリビングデッドは生き仏と呼ばれていた。フルサワとウナミは緊急事態宣言下、とあるビルの地下で禁断の秘密と向き合うことになる……。人類存亡の危機は回避されるのだろうか?」
出演:古澤健、宇波拓、石川雄也、小原治
企画・脚本・編集・監督:古澤健|撮影:古澤健、宇波拓、石川雄也|音楽・整音:宇波拓|劇中曲:HOSE「Piano
|メイキング:石川雄也|協力:小原治|企画協力:大槻貴宏
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